「細胞のはたらきがわかる本」(伊藤明夫)

自分はここまでわかりやすく説明できていただろうか?

「細胞のはたらきがわかる本」
(伊藤明夫)岩波ジュニア新書

中学校の教員をしていると、
よくこう思うことがあります。
「なんでこれだけ教えたのに
生徒は理解していないんだ。」
「最近の生徒は勉強しないからなあ。」

でも、
冷静に考えるとそうではないのです。
やはり自分の教え方の
どこかが悪いのです。
わかってもらえないのは
教え方・伝え方の問題なのです。
伝える相手への想像力を持っていないと
わかりやすい説明はできないのです。

その「伝える相手への想像力を持って」、
わかりにくいことをわかりやすく
説明してある本に出会えました。
またまた岩波ジュニア新書の本書です。

「○○○がわかる本」と銘打たれていて
本当にわかる本は、
実はあまり多くありません。
しかしこの本は違います。
本当によくわかります。
おそらく筆者が相当に
生物学の専門性が高い(当たり前です、
本を書くくらいですから)こととともに、
相当にイマジネーションが
豊かだからでしょう。
中学生でも十分に理解できます。

本書のわかりやすさの秘密の一つは、
細胞のはたらきを
社会のしくみにたとえていることです。
一人一人の人間が
それぞれの役割を担いながら
一つの大きな社会が
できあがるのと同様に、
一個一個の細胞が緊密に連携し、
一人の人間をつくり上げているのです。
細胞は顕微鏡がなければ見えません。
それを目に見えるものに例え、
あたかも「見える」ようにとらえさせる。
それによって知識だけでなく、
豊かな自然観・生物観まで
形成できるようになっているのです。

また、自然科学を扱う本ですから、
どうしても専門用語は登場します。
本書のわかりやすさの秘密の
もう一つは、
専門用語を必要最小限にとどめた上で、
丁寧に提示していることでしょう。
僅かな違いではあるのですが、
「ペプチド結合がつくられます」と
「ペプチド結合という
結合がつくられます」では、
後者の方が親切です。

「そうか、
こんなふうに説明すればいいんだ!」と、
仕事上のヒントを
たくさん得ることができました。
「細胞」は中学校の生物分野、
そして高校の生物では
最も基本的な考え方になります。
ここを「わかりやすく」伝えることは
極めて重要です。

理科の教員だけでなく、
誰かに何かを伝えることを
仕事としているすべての大人たちに
お薦めの一冊です。
そしてこれから「細胞」を
学習しようとしている中学校2年生に
ぜひ薦めたい一冊です。
本書を参考書にして、
「細胞」をしっかり理解しましょう。

※こういう本が
 地方の書店では店頭に並ばず、
 ラノベばかりが
 幅をきかせている現状を、
 私は残念に思っています。
 教員のみなさん、
 そして大人のみなさん、
 こういう本を
 ぜひ中学生に薦めましょう。

(2020.5.8)

Arek SochaによるPixabayからの画像

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